第二回『遅咲き』

才能があるのだが一向に開花しない。


当方、幼少期からその片鱗を見せ運動、勉学、武道、芸術、あらゆる方面で周りからの期待を一身に受けてきたつもりであるが中年になった今でもその片鱗が片鱗のままなのであるからして実に奇妙なのである。

まぁおそらく遅咲きの人なのであろう。
お母さんだってこう言ってた、
『アナタハヤレバデキルンダカラ…』



兄とテレビゲームをやっていた時の事である。
我が家には”30分交代”なる規律があり、ゲームをしてない者は『ゲームをする者』のプレイを横で見物し、あーでもないこーでもないとチャチャを入れつつ『ゲームをする者』がむつかしいコンボなぞを決めた暁にはその雄姿を褒め、讃え、労い、喜びを分かち合わなければならなかった。

ドラクエ3。
着々と物語を進めていく兄に対し私はメタルスライムが高確率で出現するダンジョンを見つけてはひたすらレベル上げに勤しんでいた。その日の分の夏休みの宿題も終え優雅に麦茶をすすりながら。
そこへ近所に住む幼友達がピンポンを押して遊びに来たのである。
出迎えにいった兄はベスケという名のその男を引き連れゲーム部屋に戻ってきた。ジャイアンツの野球帽を被っている。
そして兄はレベル上げをしていた私にこう言い放ったのである。

『時間だ、交代しろ』

はぁ?
である。

私の計算ではまだ20分ほどしかたっておらず、その事を兄に抗議した。しかし、
『いいや。30分たったから交代だ。オマエ時計もろくに見れないのか?』

私は必死の思いでベスケに助けを求めた。
『おいベスケくん。11時10分から始めたから今11時30分くらいだからまだ20分しかたってないよね?』

すると野球帽のツバの部分を触りながら、
『11時10分からならもう30分たってるよ』

何のことはない今思えばベスケは兄買収されていただけの事であるが、
当時の私としてはなんとも言えない感じを覚えた。
鉛をみぞおちにそっと入れられたような。

そして突如として不安が訪れた。

…僕は本当に時計を見れているのか?
…僕の時計の見方は本当に正しいのだろうか?
今まで時計の見方を誰かにちゃんと教わったことがあったか? 彼らの言うとおりタイムオーバーなのではないか?

ニヤついた兄の横でベスケはあぐらをかき白眼を剥く練習をしている。


私はただただ判決を受け入れるしかなかった。


兄にコントローラーを渡し、
「今後気をつけるように」
と許された私は自決を余儀なくされた荒野の落武者よろしくその場にペタンと座り込み、力なくコウベを垂れ、毛羽立ったカーペットのシミをジッと見つめていた。

白眼のベスケを従え、着実にゲームを進めていく兄の高笑いを聞きながら。



第一回『三日坊主』

 

悪気はないのである。


辞書によると、
『物事に飽きやすく、長続きしないこと』
とある。


これには自分なりにその都度相当の理由があるにはあるが、
それをいちいち周りの人たちに言って回る訳にもいかず、
いや言って回ろうと思えば出来るのだが、
相手の身になって考えてみるとそれはもしかしたらひょっとして、
『いきなしそんな事を言われましても、はた迷惑、自分には関係ない』と、
少なからからずの戸惑いを与えてしまう結果になりはしないかどうか。
当方の生まれ持っての性分、気遣いと思いやりを貪りでっぷりと肥えたミミズ千匹が首筋から後頭部にかけて這い回るのであるから私には出来ない。
優しい人だ。


課した荒業数知れず、
腹筋20回×3セット、 水2ℓ、毎食with黒ウーロン茶、駅まで徒歩、つま先歩き、500円玉貯金、単語ドリル、ワイン入門、日本の温泉とその泉質、などなど、コレまさに、エトセトラエトセトラなのである。

それなりの自負もある。

質より量の面から見れば相当ヤリ手。
エセ健康法、エセ資格、エセ雑学、何一つ身になってはいないかもしれないが不毛な異性交遊と同じでカウントだけはしてある。キズモノにして。



そんな三日坊主な私がこの度、コラムを担当する事になった。
真摯な姿勢で取り組んでいきたい。


『コラムだと!?何事においても三日坊主な君に何ができる!』と読者は思うかもしれないがそれは違う。

三日坊主に関して言えば、
三日坊主ではないのだから。。


灰になるまで。